野球好きの私には夢がある。もしかなえられるなら、タイムマシンに乗って草創期のプロ野球の試合を観戦してみたい。当時は、職業野球と呼ばれ、学生野球花盛りの時代に、興行としての野球は世間から見下されていた。ラジオ中継は一部あったらしいが、テレビがなく、東京と大阪にしか球団がなかったので、戦争体験者から戦時中の苦労話をお聞きする機会には恵まれても、当時の職業野球を観戦したという体験談を聞いたことは一度もない。中河美芳(イーグルス)、沢村栄治・ビクトル=スタルヒン・川上哲治(巨人)、若林忠志(阪神)、苅田久徳(セネタース)、石丸進一(名古屋)、鬼頭数雄(ライオン)、野口二郎(大洋)…球史に残るスター選手たちを、当時の後楽園球場や甲子園球場、西宮球場などで観戦できたらいいのになという、全く不可能な夢。当時の観客数は今と比べ物にならないくらい少なかったが、いったいどんな光景だったのか、応援風景はどんな様子だったのか、応召で戦地へ赴く寸前の選手たちを、ナインや野球ファンはどのようにして見送っていったのか…書籍である程度知ることができるが、実際の様子を味わってみたい。戦争は選手たちの命を奪っていった。戦争がなければ、大スターとして球史に残る輝かしい記録を数倍多く残していたかもしれなかったのに。
昨年夏に東京・野球体育博物館へ行った時の写真です。後ろの「鎮魂の碑」と銘打たれた石碑には、戦争の犠牲になった選手たちの氏名が刻み込まれています。