2022年12月30日。
また一人、仲間を亡くした。
松尾健さんという70歳代の男性。
今朝、携帯に電話をしても繋がらない。
普段なら直ぐに出てくれる人なのに…おかしいな。
数時間後、他にも同じように彼の近況を心配していた方から、連絡が入った。
「亡くなりました」。
原因はわからない。
松尾さんは独り暮らし。
真夏も真冬もエアコンがない日常。
本当はキツかったんじゃなかったかな…。
私とは20年くらい前からのお付き合い。
新人候補の頃から応援してくれた。
何故だろう?
時間やお金の常識をしっかりと持つ几帳面さ。
形式張ったことは望まなかった。
健康面、生活は規則正しく、特に食事に気を遣っていた。
生活が苦しく、スーパーの見切り品で凌いでいたが、食品の栄養価を第一に考えて遣り繰りをされていた。
その点、無頓着な私は勉強になった。
「簡単な買い物からでも、何か困ったことがあったら支援しますよ!」
高齢者、障がい者、道端で見知らぬ人にも躊躇することなく、気軽に声を掛け、知り合いをつくる松尾さん。
活字を食い入るように読み込み、勉強好きだった松尾さん。
自身が感じていることを他人に伝えようとしても伝えきれず、もどかしい気持ちになっていることがよくあった。
個性を潰す半ば全体主義的な空気、自分のことばかりしゃべって、会話のキャッチボールを知らない”大人”を厳しく批判する人だった。
「40年数年前、百科事典を買っていただき有り難うございました!ホルプ元社員の松尾です!」
他人の恩情を決して忘れず、出版社のセールスマン時代に書籍を買ってくれた顧客との縁をいまに至っても大事にしていた。
伺い知れない苦労があってのことか。
彼を嫌う人や敬遠する人もいた。
しかし、私はそんな松尾さんが好きだった。
松尾さんは美術家でもあった。
落ち葉や棒切れ、小枝、石ころ、張り裂けたぼろ布などを素材にしてたかな?
人間社会の裏側、醜さ、落ちぶれ荒んだ様を空間を目一杯利用して大胆に抽象的に画く。
「絵の具や筆、画板、値上がりして、なかなか描けない」。
ご自宅では赤々とした遺品が、愛読書の山の中に埋もれていたのではないだろうか?
写真で若い頃の作品を見せてもらったことがあったけど、一度は直に接してみたかった!
「作品を発表出来る場所が欲しい」
出来れば松尾さんの個展のような企画を実現してあげたかった。
ゆっくりと芋焼酎を水か湯で割って独り、口にするのを毎夜の楽しみしていた。
「赤田さん、僕のような嫌われもんで、わけのわからんこという人間も、時には必要やろ?」
「いや、松尾さんの話は筋が通ってるよ!」
「エエッ!そんなこと言われたのは生まれて初めてや!」。
でも正義感が強く、優しい人だった。
寒い夜に独り旅立って行った。
もう会えない…20年間、有り難う!